小田森(おだもり)くん、はいこれ。修学旅行用の冊子」
「あ……う、うん」
「それじゃ、半分よろしくね」
「あぁ、わかったよ」
たったこれだけ。
それが俺、小田森トオルと、クラス委員の姫野桐華(ひめのきりか)との間で交わされた会話のすべてだった。
俺の席が教室の最前列左端だったため、冊子を配る手伝いをする流れになった時の、ただそれだけの会話。
何のとりえもない地味な男子生徒と、成績優秀で人気も抜群な学園指折りの美少女。
できる接点なんて、まあせいぜいそんなもんだ。
でも、まさか……「ただし、元の世界では」という註釈が、ここにつくことになるなんて。
※ ※ ※
俺にとって修学旅行は、他の学校行事と同じく陰鬱なイベントだった。
なにせ恋人はもちろん、友達のひとりもいないのだから。
イジメられてるわけではないが、誰からも重要視されない、空気のような存在。
それが入学以来ずっと変わらない、クラスにおける俺の立ち位置だった。