第二話 クラスメイトという繋がり
いろいろ疑問が湧き出てくる。レベルが1なのは理解できる。ここがRPG的な世界なら、自分はまだ誰とも戦闘を経験していないから仕方が無い。
しかしこのMP(魔力)の高さは何だろう? 異世界人は魔力が高いというような話は先程聞いたので、その恩恵だろうかと思う。
ちなみにHPは体力。MPは魔力。EXPは経験値。NEXTは次のレベルアップまでに必要な経験値。ATXは攻撃力。DEFは防御力。AGLは素早さ。HITは命中力。INTは賢さ。これはゲームでもよく利用されている表現だ。
AGLが意外に高いのも驚くが、やはり一番驚くのはこれだろう。
《巻き込まれた者》
これは完全に、他の四人の勇者の巻き添えでこの世界に来たパターンのやつだ。つまり自分は勇者ではなく、限りなく一般人だということだ。魔法についても気にはなるが、それよりもこの事実をどう説明したものか思案する。
そんなふうに考えていると、ルドルフが聞いてくる。
「どうだ? 称号を見てくれれば分かると思うが、勇者の称号があるはずだ」
それに真っ先に答えたのはやはり大志だった。
「は、はい、あります! 勇者って書いてあります! うわ~すげえな、ホントに俺ってば勇者なんだなぁ」
何やら感動しているみたいで声を漏らしている。
「なあ千佳ちか、お前はどうだ?」
大志に言われて答えたのは鈴宮千佳すずみやちか。彼女はクラスでもよく喋る人気者の一人だ。ハキハキと物を言い、屈託なく人と接するから好感が持てるのだろう。
見た目も大志よりは薄い茶髪のショートカットをしている。胸はいまいちな大きさだが、スポーツ万能な彼女ながらのスレンダーな体躯は目を引きつけるだろう。
「うん、あったわ大志」
「そっか。朱里しゅりとしのぶは?」
同じく近くにいる彼女たちにも声を掛ける。
皆本朱里みなもとしゅりは綺麗な艶々とした黒髪のロングヘアーだ。
こちらは千佳とは違い、男を寄せ付けてしまうほどの豊満なボディを有している。彼女は茶道部に所属していて、時々着用する着物姿を拝もうと、男子たちは見学に行ったりする。
垂れ目気味な目と、泣きぼくろもチャームポイントなのだろう。
もう一人の赤森あかもりしのぶは、好奇心旺盛な少女である。彼女自身新聞部に所属していて、将来はそっち方面の職業に就きたいと思っている。彼女もかなりの饒舌家じょうぜつかであり、頭も良いので皆からよく試験対策を聞いたりされている。
肩までの少しウェーブのかかった黒髪をしている。ネコのような目つきは、獲物を見つけると決して逃さないといった強い意思が宿っているような感じがする。しかも関西出身である。
しかし三人に共通して言えることは、三人ともが、道を歩けば男の目を引く美少女であるということだろう。その上、いつも大志と一緒にいるハーレム要因というわけだ。
朱里としのぶも勇者の称号があったようだ。そしてそこで、次は当然の如く日色に視線が向かう。
「お主はどうじゃった?」
「……無い」
一言そう言った。すると周りがザワザワしだした。
「無い……とは、それではどういった称号があるのか答えてみよ?」
上から目線も鬱陶しいなと思いながらも、正直に答える。だが一つだけ。
「《巻き込まれた者》……」
その言葉に今度は四人の雰囲気が変化する。眉を寄せて信じられないといった感じでポカンとしている。
「《巻き込まれた者》……? リリス、どういうことか分かるか?」
「え、あの……はい。恐らくはその……」
言い難そうに顔を俯かせる。日色は彼女を見て嘆息たんそくする。そして彼女の代わりに話す。
「オレはただの一般人。たまたまあの時、教室に来てしまったせいで、コイツらの巻き添えになった。そういうことだろ?」
「あ……あの……」
「ちょっとちょっと! 丘村! コイツらって何よコイツらって!」
千佳が指を突きつけて言ってくる。だがそれを完全に無視して続ける。
「本来この世界に呼ばれるべきだった人数は四人。それはそいつら四人だ。オレは言ってみればイレギュラー的存在だ。この始末はどうつけるつもりだ?」
別に敵意や殺意は込めてはいない。ただ淡々と言葉を並べているだけだ。それでも召喚したリリスの顔が青ざめていく。
「いや、オレだけじゃない。そいつらもこっちの都合で呼び出された。向こうにいる家族はさぞ心配してるだろうな」
増々リリスは表情を悲痛なものに歪ませていく。
「確かに、そちらの都合を考えず召喚してしまったことには申し開きはできぬ」
そう国王が謝罪の言葉を述べる。つい言いわけじみたことを言ってくると思ってはいたが、存外自分たちの犯したことの重大さは認識しているようだ。
「しかし、ワシらにはもうこれしか方法は無かったのじゃ」
「いや、ハッキリ言ってそいつらについてはどうでもいい」
「は?」
日色の言葉に皆が時を止める。
「オレとそこの四人には基本的に何の繋がりも無いとオレは思ってる」
「おいおい、丘村! 一応クラスメイトだろうが!」
堪たまらず大志が怒鳴ってくる。
「ああ、クラスメイトだ。ただ単に学校側が決めた、同じ部屋で勉強するだけの繋がりだけしかないだろ?」
「そ、それは言い過ぎです……」
「そうそう、せ~っかく同じクラスになったのに~」
朱里としのぶもそれぞれの感想を述べる。
「なら言うが、一緒のクラスになって四か月以上、オレは一度もお前らと話したことが無いが?」
本当のことだった。基本的に一人が好きな日色は、彼らだけでなく、他の者たちとも距離を置いていた。寝ること、食べること、読書。それが日色の常だった。
日色の言葉を受け、四人は押し黙る。彼の言う通り、確かにクラスメイトだが、今まで喋ったことは無かった。話しかけにくいとは感じてはいたが、進んで喋ろうとも思ったことが無かったのも事実だ。
「さて、さっきも言った通り、そっちの四人とはオレは何の関係も無い。アンタたちがほしいのは四人の勇者なんだろ? だったらオレはいらないはずだが?」
「む、むぅ……」
ルドルフは難しい表情をしながら唸る。どう判断したらいいか迷っているのだ。
「勇者っていうんだから、そいつらは相手が『魔族イビラ』でもそれなりに戦えるんだろ? けどオレは一般人だ。まさかオレにもそんな危ない奴らと戦わせるつもりじゃないだろうな?」
「…………なら聞こう。お主はどうしたい?」
「元の世界へは?」
「ぶ、文献では『魔族イビラ』の王が送還そうかん魔法を知っているらしい」
ルドルフの言葉が王座の間に響くが、瞬間的に表情を暗くさせたリリスが気になった。それを見て日色は静かに目を閉じる。
「な、ならさっさとその『魔族イビラ』の王を倒せばいいんですね!」
コイツは馬鹿だなと日色は思う。仮に知っているとして、そんな人物を倒してどうするんだ。ノリだけで言葉を放つ大志に対して呆れてしまう。
「う、うむ。その通りじゃ。それにじゃ、この国も素晴らしいし、きっと気に入ると思う。お主たちはもう我々の家族と同じようなものじゃからな」
何だか必死に言い聞かせるように言葉を並べるルドルフを見て、日色ひいろは肩を竦すくめる。
「あ、でも丘村じゃないけど、向こうに残した家族が心配だな」
千佳だけでなく他の者も同じ心配をしている。
「そ、それについては心配無いようじゃ、そうだな?」
そばにいる学者のような男に話を振る。
「あ、は、はい! じ、実は向こうでは君たちは最初からいなかったことになっているのです!」
「い、いなかったことになっているだって!?」
その言葉はかなり衝撃的だったようだ。
「あ、いえ、安心して下さい。それは向こうの世界の辻褄を合わそうと力が働いているからで。向こうに戻ったら元に戻ります……はい」
(嘘……だな)
日色は彼らの態度から間違いなくそう感じていた。
(恐らく今奴らの言ったことは全部嘘だろう。それは何とかしてオレらを納得させるために作り上げた理由だろうな。送還魔法……つまり元の世界に戻す術は……無い。少なくとも今のところは。それにだ、いなくなったことになるというのもどうだかな……)
それに気づいているのは四人の中にいるのかなと思いそれぞれの顔を見つめる。大志は全く気づいていない。千佳も同様だ。そんな中、彼らの言葉に眉を寄せていたのは朱里としのぶだ。
(まあ、奴らが帰れるかどうかなんてどうでもいいか。オレは……別にどこででも生きていけるしな)
丘村日色は児童養護施設育ちである。両親に捨てられたというわけではなく、まだ幼い時に両親が事故に遭い死んでしまったのである。
それからは児童養護施設に引き渡され育った。そこではそれなりに友達もできた。しかしそれ以上に、読書が好きでほぼ毎日様々な本を読み耽ふけっていた。人間の友達よりも、本が友達と呼ぶに相応しい存在だっただろう。
何も無い天涯孤独というわけではないが、どうしても向こうの世界へ帰らなければならないという理由も無い。だから別段帰る方法が見つからなくても困りはしないと思った。
先程の様子から、帰る術すべが無いと知っているリリスも含めてその顔は若干陰りが見える。やはり嘘を吐いていることが後ろめたいのかもしれない。
ルドルフの説明により、とにかく今は帰る術が無いのは理解できた大志たちは、これからのことについて話し合った。
「確かに、丘村の言う通り、あなたたちは俺たちを勝手に呼んだ。それは自分勝手だと思います」
大志にまで言われてさすがのルドルフも渋い顔をしている。
「けどま……」
そう言いつつ日色以外の三人の顔を見つめる。すると皆がクスッと笑って再び王を見る。
「俺たちはやりますよ!」
「ほ、本当にやってくれるのか!」
ルドルフが声をつい荒げる。
「ええ、俺たちはこういう世界で旅してみたいなと話をしていたところだったんですよ」
「うん! オンラインゲームで一緒に四人で冒険もしてるしね!」
千佳が言うように、彼らは元の世界では四人でRPGのオンラインゲームで遊んでいた。そしてよくあの放課後のように四人で集まって、冒険へ行く場所などの相談をしていたのだ。
ここに飛ばされた時もちょうど四人でこういうゲームみたいな世界で冒険したいという話をしていたのだ。
「で、ではやってくれるのか!」
「その代わりなんやけど……」
そう王の次に言葉を発したのはしのぶである。
「《ステータス》を見たところ、ウチらはまだレベル1みたいやん。つまりまだ初心者っつうことやんな?」
「う、うむ。そうなるな」
「このままやと、『魔族イビラ』とはまともに戦えへんと思うねん。せやので……戦う術を伝授してほしいなぁ~って思うんやけど?」
「それについては心配いらん。戦闘については……」
その時、鎧を着用した一人の人物が姿を見せる。
「ここからは私がご説明致します勇者様」
そう言いながら片膝をつき首こうべを垂れる。
「私はウェル・キンブルと申します。勇者様がたに戦い方を教授させて頂く役目を仰せつかっております」
「ちなみに彼はこの国の軍隊である第二部隊隊長じゃ」
彼は端正な顔立ちをしたイケメンである。体つきを見れば、鍛えに鍛えていることがよく分かる。緑色の短髪であり、意志の強そうな瞳が光っている。
女性の視線が彼に集中するのも無理は無いだろう。千佳だけは興味が無いのか無表情で彼を見つめている。
「と、いうことは、そのイケメンさんがウチらを鍛えてくれるってわけなん?」
「そうじゃ、今国境は少しの間だけ落ち着いている。また激しくなる前に、お主たちには強くなってもらいたい」
「あ、住むところは?」
「それはこの城で用意してある。あとでリリスに案内させよう」
どうやら話はどんどん進められていって、大志たちは戦うことに決めたようだ。そこで日色は手を上げる。
「悪いがオレは自由に動かせてもらうぞ?」
その言葉に皆はまたも時を止める。
「いやいや、オレは