→本当に参ってるんだ。それで会社も長期休暇を取って、こっちに逃げ出してきているくらいでね。奈緒子はこういうこと、全然聞いてこないんだが
→そうなんですか
→親子だと、帰って話しにくくてね。まあ、話さないですむんだな。親子だと
→皿の繋がりの強さと奴だろう。僕の場合だと、奈緒子をだますのは全然平気ではないけれど、姉貴をすのはまあ平気だ。親子や兄弟は何があっても親子や兄弟で、だからこそ、いろんなことを曖昧にしたままでもやっていけたりする。
→あ、どうぞ
→グラスが空っぽになっていたので、僕はお父さんにビールをついだ。お父さんはありがと丁寧に言ってそのビールを飲むと、今度は僕にお酌してくれた。
→実は会社を辞めようと思っているんだ。
→会社を?
→夢があってね。大した夢じゃないんだが、それでもずっと考えてたんだ。諦めてたといった方がいいかな。会社人生もけっこう楽しいしね。ただ、この年になると、人生の終わりを意識するようになるんだな。