やばいぞこれは……このままじゃ、勇者に全部持っていかれてしまう)
改めて勇者と張り合うことの難しさを知る。あっちは勇者という生まれ持ったチート能力がある上にかくし子とはいえ王の血を引く王子様。しかもイケメンとくればほぼ無敵である。貴族の跡継ぎとはいえ、能力的には平凡であるリトネは最初から不利であった。
「これからどうすれば……そもそも、勇者に勝つにはどうすれば……」
何とかして彼に匹敵する力を身に着けたいが、どうしたらいいか分からない。
うんうん唸りながら廊下を歩いていると、メイドが叫びながら走ってきた。
「おぼっちゃま!大変です!!!早く地下室に避難して!」
「え?どうしたの?」
「中庭に……巨大なドラゴンが……」
それを聞いた途端、リトネは中庭に走っていった。
中庭
ボロボロになった騎士たちが、庭に倒れている。
鋭い爪で鎧は裂け、炎で丸こげになっているが、傷ついただけで命には別状はなさそうだった。
中庭に走ってきたリトネに対して、彼らは告げる。
「お、おぼっちゃま……お逃げください。凶暴なドラゴンです。我々も戦いましたが、まるで歯がたたず……」
そこまで言った所で、意識を失う。
(やばい。超こええ)
ドラゴンの迫力に押されてちびりそうになりながらも、リトネはドラゴンの前に進み出た。
「グワァァァァァァァァァァァァァァァ」
大きな口をあけて威嚇するドラゴンに、頭を下げる。
「マザードラゴン様。ようこそお越しくださいました。私はシャイロック家の跡継ぎ、リトネ・シャイロックと申します。あなたのお越しを心からお待ち申し上げていました」
礼儀正しく、そして卑屈にならないように精一杯敬意を示す。
ドラゴンはしばらくリトネをにらみつけていたから、ふんっと鼻息をもらした。
「……一応、礼儀を知っている小僧だな。話だけは聞いてやる」
しわがれ声でそう告げると同時に、姿が変わっていく。
「……とりあえず、我が子の元に案内せよ」
マザードラゴンは妙齢の女性の姿になって、偉そうに命じた。