→まだ若いじゃないですか。終わりだなんて
→うん、まだ若い。どうにかやり直せるくらいにはね。だけど、ここを過ぎてしまったら、もうやり直すのは無理だと思うんだ。少しずつ体カも気カも落ちていく。十年後は今のようには動けないだろう。そんなふうに人生の残りを意識するようになった途端、突然夢を追ってみたくなったんだよ。でも妻は理解してくれなくてね。まあ、もっともなんだ。生活もあるしね
→はい
→妻の頭の中には、人生理想像みたいなものができ上がってるんだな。僕が勤めてるのはそれなりに大きな会社だし、このままなら経済的には何の心配もなく暮らしていける。悪い人生じゃないんだよ。どちらが間違ってるかって言ったら、僕の方なんだ。妻が怒るのも、もっともだと思う。それでも僕は理解して欲しかったんだ
→理解して欲しかったんだな、とお父さんは繰り返した。
→いつの間にか、夫婦という関係に甘えていたのかもしれないね。今まで、そう言うことをちゃんと話してこなかったから、いざ話そうとしても言葉がうまく通じないんだ。感情ばかりが走ってしまってね。それで、ついに家出までする羽目になってしまった